〇〇ホールディングスが「保険業界に新規参入」というニュースを見ると、誰でも保険屋は収益性が高いと考えると思います。
でも実際には保険業界は儲からないと思っています。その根拠をモデルケースを使って解説します。
保険屋のモデルケース
3人でやってる代理店、月に600万円の契約保険料をもらっているとします。
自動車保険なら契約者あたり7万円が平均ですから85件必要な計算です。
600万円に各種目ごとの代理店手数料率をかけた分が代理店の手取りになります。
自動車保険なら30%、火災保険なら20%、新種保険(賠償や特殊な用途の保険)なら15%、当社は全体で25%くらいなので、600万円×25%=150万円。
150万円から経費を抜きます。
テナント料20万円(ほんとは当社は50万円)、備品(コピー用紙、インク代)3万円、営業交通費5万円、光熱費3万円、通信費(郵便、ケータイ)5万円、交際費etc。
さて、いくら残るでしょう。
ざっくりした計算ですが、この場合、手元に残るのは114万円。
3人で割ったら1人あたり38万円。
総支給38万円の給料って手取りいくらですか。
東京都内、扶養なし、なら314,957円です。
これ3人で85件契約取った時の給料ですよ。
毎日働きづめです。
しかも役員もみんな同じ場合です。
とても「儲かるから参入しよう」なんていう事業じゃないですよね。
保険会社だけは儲かっているという嘘
いやいやそんなこと言って、代理店は儲けていなくても保険会社のビルは立派じゃない?
保険会社だけが利益をせしめて、儲けているんでしょう。なんて思っていませんか?
これはそもそも保険の考え方を無視した考え方です。
というより、保険に対する知識が欠けているためにそう考えてしまうのでしょう。
そもそも、保険会社というのは倒産してはいけないんです。
これはわかりますよね。
つぶれたら契約者やその周辺の人に多大な不利益が及ぶので倒産しないように運営されています。
しかし、保険が担保する台風や地震は突然予想できないタイミングで予想できない規模で起きます。(当然それを統計上予測して計算しているんですが)
なので、保険会社はそれを上回る資金を平時から確保しないといけないわけです。
一つの目安にソルベンシーマージン比率というものがあります。
通常の予測を超えて発生するリスクに対応できる支払余力をどれだけ有しているか」を判断するための行政監督上の指標のひとつです。
例えば大災害や株の大暴落などといった通常の予測を超えて発生するリスクに対応できるだけの余裕、つまり「支払余力」があるかどうかを判断するための指標なのです。
ソルベンシーマージン比率は、数字が大きいほど支払余力も大きいと判断されます。
損保各社のソルベンシーマージン比率は700%超え、まぁこれをどう見るかは意見が分かれるところなんですが。
行政の指標では200%は必要とされています。
※ちなみにこの数字、もし保険金支払いで下がってしまった場合、1年以内に元の数字まで戻すように行政からは指導されています。
東日本大震災では保険金支払い総額が1兆3000億円を超えています。(全保険会社共通2020年12月現在)
損保メガ3社の一つである損保ジャパンをとって見てみると2011年3月の時点で750%あったソルベンシーマージン比率は、震災の影響を受けて約250%ダウンして、500%にまで落ち込んでいます。
もし保険金請求が1社に集中していたとしたら、保険会社は簡単に無くなっていたでしょう。
前述した通り、そうならないように保険会社は再保険を出したり、地震保険を政府との按分にしたりしているのです。
ただここで言いたいのは、たった1回の巨大災害が保険会社の倒産を決めてしまう可能性がある、ということ。
しかもそこには当然働いている何千人もの社員とその家族、私たちのような契約者まで多くの人の運命が乗っかているんです。
それなのに「保険会社が儲けている」というのは、論調としておかしいわけです。
保険会社が儲からなくなったとしたら、それはほとんど災害が無くなった世の中か、災害が多すぎて経営が困難になった状況か、のどちらかだと思います。
保険会社はそもそも料率算定機構の決めた料率の範囲で保険料を決め、それを金融庁が審査したのちに保険商品として発売されます。
不当に儲けることはできないし、できたとしても保険の仕組みが機能しなくなると困るのでやらないのです。
保険金請求が減れば保険料も下がっていきますし、どんどん良い商品も出てきています。
保険会社に利益が出ているのは良いことで、平和の指標ともいえると思います。
保険会社の経営状態が悪化した時こそ、危機感を持つべきだと思います。